今はSNSを使って自ら販売する方も増えているとは思いますが、私たちがブランドをはじめた頃はアパレルブランドを立ち上げる場合、まずサンプルを数型作り、LOOK等を作成して、そして販売店へ向けた展示会を行うという方法がブランド立ち上げの主流でした。
展示会でオーダーを受けた分を生産するので、在庫を抱えるリスクが少なく、製品が出来上がり次第売り上げが確保できます。そして、また次の新作のサンプルを作って展示会を行い受注を取って生産して納品する、というサイクルでブランドを運営していきます。
まとまった数を工場へ依頼できるので、メーカー側も工場側も効率よく商品の生産ができます。
そして定期的に商品が入れ替わる事で新鮮さを保てます。常にフレッシュな店頭はいつ行っても飽きません。
この流れをキープするため、メーカーは常に展示会ごとに新作を生み出し続けて、販売店は次の新作と入れ変えるためにSALEをして商品を消化させます。
トレンドの移り変わりが早いファッション業界は、このサイクルがビジネスを円滑に回していきます。
これが一般的なブランドの成り立ちです。
しかし、私たちはブランドを立ち上げる時に、この方法を選びませんでした。
早いサイクルでどんどん新しい物を作り出さなくてはならない流れに乗りきれなかったからです。
一つ一つの商品を大切に、自分たちも息苦しくならないペースでファッションビジネスが出来ないものかと考えました。
そして春夏秋冬で商品を全て入れ替えるコレクション展開はせず、シーズンごとのSALEは行わず、可能な限り自分たちの手で直接お客さまに販売する道を選びました。
流行に消費されることなく、持続可能なアパレル事業ができると信じて。
こうして事業を始めたのですが、コレクション展開をせずオリジナル商品を自分たちで販売する事は、想像を遥かに超えるいばらの道でした。
初めは実店舗がなかったので、オンラインストアでの販売と知り合いやその知り合いづてにイベント出店させてもらい、お客さまへ直接販売を行っていました。
事業計画はありましたが、全く計画通りにはいきませんでした。
工場はある程度の発注数がないと受けてくれないので、なかなか工場も見つかりません。
やっとの思いで商品を作った後には、この商品が売れるのだろうかと在庫を見ては不安に押しつぶされそうになっていました。
それでも、はじめに大規模なビジネス展開を選択しなかったのは、昔に観た「北の国から」の五郎さんの言葉が深く影響しているからです。
北の国から’98『時代』のある一節で、五郎さんは息子の純にこう言いました。
「考えてみると、今の農家は、気の毒なもんだと俺は思うよ。どんなに美味い作物作っても、食ったやつにありがとうって言われないからな。誰が食ってるか、それもわからねぇんだ。だからな、おいらは、小さくやるのさ。ありがとうって、言葉の聞こえる範囲でな。」
この台詞がずっと胸に残っていました。
時を同じくして、草太兄ちゃん(岩城滉一演じる純や螢のお兄ちゃん的存在)は農業を大規模に拡大して、徹底的にお金を追求していました。
五郎さんの農業とは正反対のやり方。
でも、五郎さんは草太兄ちゃんを非難する事なく、その頑張りを認め、自分が時代遅れと言いながら、己の芯を貫いていました。
そんな五郎節に私の心はぐっと鷲掴みされたのです。
北の国からを観たそのずっと後に、私は自分でビジネスを立ち上げる事になるのですが、その時に強く想った事は”ありがとうが直接言える範囲で商売がしたい”という事。
元来小心者なので、大きくビジネス展開をできるわけがなく、小さくしかできなかったとも言えます。
どの業種で合っても、どこに目標を置くかで進む道が変わってきます。
草太兄ちゃんは農業を大きくすることで必死に自分の理想を追い求めたのだと思います。
自分が求める結果のために自分の理想を追求していく。
スタート時と比べると大きく成長したとは思いますが、ブランドを立ち上げてから7年が経った今でも、不安はなくなりません。
それでもなぜやり方を変えなかったのかを考えてみると、ブランドを始めてから今日までずっと、お客さまに恵まれていたからだと思います。
今はありがたいことにご縁がある店舗さまには卸売りをさせて頂いていますが、基本はお客さまへ直接販売することが私たちが大事にしているベースです。
大切な『普段着』として使ってもらえるように、商品の販売価格も卸売りを想定した価格設定ではなく、少しでも買い求めやすい価格にしています。
いつもmiddle製品を愛用してくださり、直接嬉しいお言葉を頂戴し、時には差し入れを頂いたり、皆さんのさまざまなサポートのお陰でこうして続けていくことができています。
お客さまと直接繋がれている事が何よりも励みになり、苦しかったコロナ禍も乗り越えられたと思います。
そして少ロットでも細かく対応してくださる工場の方々や関係者の方々にも、いつも支えてもらっています。
事業計画は全然思い通りにはいかないけど、人との出会いに恵まれ、温かな方達に囲まれています。
商売をしている以上利益を出さなくてはいけないですが、決して目先の利益だけに惑わされずに理想と現実・芸術とセールスのバランスを保ちながら商売を続けていきたいと思います。
2024年も感謝の気持ちを忘れず実直に頑張るぞー!
Kenta