ある一冊の本(後編)

投稿日:

その1ヵ月後、無事に妻のお腹から女の子の赤ちゃんが産まれました。

お腹の中にいて姿を見ることができずに過ごした10ヶ月間、ずっと赤ちゃんと妻の体が心配だったので、私はとにかく安心しました。

そして我が子が生まれてくることは、人生での一番の喜びだと実感しました。

しかし初めての子育ては決して甘いものではありませんでした。

かわいいだけではない子育ての現実。

娘はとても敏感ですぐに大泣きする、夜も昼もぜんぜん寝ない子でした。

妻から離れることをとにかく嫌がり、一日中ひとときも離れることがありませんでした。

トイレに行くことすら許されませんでした。

赤ちゃんを育てる事がここまで大変な事なのかと、実際にやってみて初めてわかりました。

お互い地元から離れた場所で暮らしていたので、周りに頼れる身内や友人がいませんでした。

妻の一番近くにいる私は、忙しく朝から晩まで仕事に出ていました。

当時私には言いませんでしたが、妻はいつも仕事に追われる私を見ていたので、子育てと家事は自分の仕事だと背負い込んでいたそうです。

その責任感が妻を追い詰めていき、次第に心身ともに限界をむかえました。

もっとも苦しい時は妻の持病が悪化してしまい、毎日夜中になると高熱がでるようになりました。

何度か病院に行ったのですが、はっきりとした原因は分からずその後も寝不足が続き、身体に負担のかかる生活はそのまま。

夜中に高熱に苦しむ妻、大泣きする赤ちゃん、仕事で疲れ切っていた私、厳しい状況が続きました。

私たちは心身ともに憔悴しきっていました。

このままではいけない

そう思い、私の仕事が休みの日など時間が取れた時には妻と何度も話し合いを重ねました。

自分たちが本当に求めている暮らしとは何か。

これから育てていく子供のこと。

どのようにして働いていくのか。

二人の考えを事細かく照らし合わせていきました。

そして人生を自分たちの手で変える決断を下しました。

妻の子育ての負担を少しでも軽くするため、親や兄弟の暮らしている九州に帰りたいという妻の思いを尊重して関東から九州への引っ越しを決めました。

今しかない子供との時間を大切にしたいと思い、私は働いていた会社を辞める事にしました。

そして、このタイミングでいつの日かと夢見ていた独立をする道を選びました。

今という時間を後悔がないように、自分たちの心地よさを追求した判断です。

大きな決断だったのですが、躊躇することなく決めることができました。

勢いといえばそうなのですが、自分なりに真剣に考えて、気持ちに正直に導き出した答えだったからです。

子供が生まれてくる前の、未知なる未来を想像している時に読んだ「家族と一年誌」

未来は自分の手で変えていけるのだと、その時に背中を押してくれました。

あれから月日が経ち、怒涛の毎日に忘れかけていた出来事だったのですが、娘が8歳の誕生日を迎え、当時を妻と振り返っていると鮮明にその時の想いが蘇ってきました。

また立ち返れるよう、ここに綴っておきます。

私の人生に大きな影響を与えてくれた、ある一冊の本の話でした。

ちなみに同じく中村暁野さん著書のエッセイ「家族カレンダー」も、家族構成やそれぞれのキャラクター、出来事がまるで我が家のことのかなと思うくらい共感できて最高です。

ユーモアラスに日常を綴った言葉選びのセンスにも脱帽です。

読み終えたときに家族ってつくづくおもしろいなと思える、そんな一冊です。

Kenta

《 ある一冊の本(前編)》